世界の貧困削減の現状と課題とは?
はじめに
世界の貧困問題を理解する上で、これまでの貧困削減の取り組みがどのような成果を上げ、現在どのような状況にあるのかを知ることは重要です。国際社会は長年にわたり貧困問題に取り組んできましたが、その道のりは決して平坦ではありません。このページでは、世界の貧困削減のこれまでの進捗と、現在直面している主な課題について解説します。
極度の貧困は大幅に減少した
過去数十年間で、特に「極度の貧困」と呼ばれる状態にある人々の数は大幅に減少しました。極度の貧困とは、国際的な基準で定められた「1日あたりの生活費が一定額未満」という非常に低い所得水準で暮らす状態を指します。世界銀行が定める国際貧困ライン(例: 1日1.90米ドル未満)を下回る人々は、1990年には世界の人口の約36%を占めていましたが、2015年には約10%にまで減少しました。
これは、世界中で経済成長が進んだこと、特にアジア諸国における急速な発展や、教育・医療の改善、社会インフラの整備など、様々な要因が複合的に作用した結果と考えられています。国際社会が掲げたミレニアム開発目標(MDGs)の「極度の貧困と飢餓の撲滅」という目標達成にも貢献しました。
現在の状況と地域的な偏り
極度の貧困は減少したものの、依然として世界には多くの貧しい人々がいます。2023年現在でも、推計で約7億人近くの人々が国際貧困ラインを下回る生活を送っているとされています(正確な数字は情報源や発表時期により変動します)。
また、貧困の状況には地域的な偏りがあります。特にサブサハラ・アフリカ(サハラ砂漠より南の地域)では、人口増加率が高いことや、紛争、気候変動、脆弱なガバナンス(政治や行政のあり方)といった要因により、貧困削減のペースが他の地域に比べて遅れています。世界の極度の貧困層の多くがこの地域に集中しており、今後の貧困削減の大きな課題となっています。
所得の側面だけでなく、栄養不良、教育を受けられない、安全な水や衛生設備が利用できないなど、貧困の多次元的な側面も依然として多くの人々を苦しめています。
貧困削減に残された主な課題
貧困削減の進捗が見られる一方で、解決すべき多くの課題が残されています。主な課題は以下の通りです。
- 紛争と脆弱性: 紛争や政情不安は、人々の生活基盤を破壊し、教育や医療へのアクセスを妨げ、貧困を深刻化させます。特に紛争地帯では、貧困削減が困難な状況が続いています。
- 気候変動と自然災害: 干ばつ、洪水、異常気象などの影響は、特に農業に依存する貧しいコミュニティに甚大な被害をもたらし、貧困を悪化させます。
- 不平等: 所得や機会の不平等は、貧困の連鎖を断ち切ることを難しくします。特にジェンダー、人種、地理的な違いによる不平等は、貧困問題の根深い原因の一つです。
- 経済ショックと感染症: 世界的な経済危機や、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のようなパンデミックは、多くの人々を失業や収入減に追い込み、貧困層を増加させる可能性があります。
- 質の高い教育・医療へのアクセス: 貧困から抜け出すためには、質の高い教育や医療へのアクセスが不可欠ですが、これが十分に提供されていない地域が多くあります。
- 脆弱なガバナンス: 汚職、法の支配の欠如、非効率な行政などは、貧困対策の効果を弱め、開発を妨げます。
まとめ
世界の貧困削減は、過去の国際的な取り組みと経済発展により、特に極度の貧困において大きな進捗が見られました。しかし、依然として多くの人々が貧困状態にあり、地域的な偏りや、紛争、気候変動、不平等といった複雑な要因によって貧困削減のペースは鈍化し、新たな課題も生じています。
持続可能な開発目標(SDGs)の目標1「貧困をなくそう」は、あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせることを目指していますが、これを達成するためには、残された課題に国際社会全体で取り組んでいくことが不可欠です。貧困問題は、単に所得の低い状態だけでなく、人々の権利や機会、尊厳に関わる複雑な問題であり、多角的な視点からの継続的な努力が求められています。