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多次元貧困とは?様々な側面から貧困を捉える考え方

Tags: 貧困, 多次元貧困, 国際開発, 貧困指標, 社会問題

はじめに

世界の貧困問題について考えるとき、まず「貧困とは何か?」という問いに直面します。多くの人は、貧困を「お金がないこと」、つまり「所得が低いこと」と捉えるかもしれません。確かに、十分な所得がないことは貧困の重要な側面です。しかし、所得だけでは捉えきれない、人々の暮らしにおける様々な困難が存在します。

これまでの記事で、私たちは「絶対的貧困」や「相対的貧困」といった、主に経済的な側面から貧困を捉える考え方を見てきました。これらは貧困の状況を理解する上で非常に有用な指標です。

しかし近年、貧困をより包括的に理解するために、「多次元貧困」という考え方が注目されています。これは、所得だけでなく、人々の生活における様々な「剥奪(はくだつ)」、つまり基本的なニーズが満たされていない状態を複合的に捉えようとするアプローチです。

この記事では、多次元貧困とはどのような考え方なのか、なぜこの視点が重要なのかについて、初心者向けに分かりやすく解説します。

多次元貧困とは何か

多次元貧困とは、人々が所得の低さだけでなく、健康、教育、生活水準など、複数の側面において同時に困難な状況に置かれている状態を指します。

従来の所得に基づいた貧困の定義では、「一日○ドル未満で暮らす人々」のように、経済的な線引きによって貧困かどうかを判断します。これに対し、多次元貧困の考え方では、以下のような問いを投げかけます。

このように、多次元貧困では、所得が低くても、これらの基本的な側面で深刻な剥奪を複数抱えている場合に「多次元的に貧困である」と判断します。つまり、お金があるかないかだけでなく、「どのような暮らしができているか」「基本的な機会を得られているか」に焦点を当てます。

なぜ多次元的な視点が重要なのか

多次元貧困の視点が重要な理由はいくつかあります。

多次元貧困を構成する主な側面(剥奪の領域)

多次元貧困の考え方でよく用いられる「剥奪」の領域は、主に健康、教育、生活水準の3つに分けられます。これらの領域ごとに、いくつかの指標が考慮されます。(これは国連開発計画(UNDP)などが用いる多次元貧困指数(MPI)の考え方に基づいています)

  1. 健康:
    • 栄養: 子どもが栄養不良であるか。
    • 死亡率: 家族の中に子どもの死亡を経験した人がいるか。
  2. 教育:
    • 就学年数: 世帯の中に一定期間以上の教育を受けていない大人がいるか。
    • 就学状況: 学齢期の子どもが学校に通えていないか。
  3. 生活水準:
    • 燃料: 料理に不健康な燃料(薪など)を使用しているか。
    • 衛生施設: 改善された(衛生的で共有ではない)トイレを利用できないか。
    • 安全な水: 安全な飲み水まで徒歩30分以上かかるか、または利用できないか。
    • 電気: 電気が利用できないか。
    • 住宅: 床が土であったり、屋根や壁が粗末な資材でできていたりする劣悪な住宅に住んでいるか。
    • 資産: ラジオ、テレビ、電話、自転車、バイク、冷蔵庫などの基本的な資産を十分に所有していないか。

これらの指標のうち、いくつかが同時に満たされていない(剥奪されている)場合に、その世帯や個人は多次元的に貧困であると判断されます。例えば、所得は低くないとしても、栄養不良の子どもがいて、安全な水も電化製品もない家庭は、多次元的に貧困であると考えられます。

まとめ

多次元貧困の考え方は、貧困を単なる経済的な問題として捉えるのではなく、人々の基本的な権利や機会が剥奪されている状態として、より広く深い視点から理解することを可能にします。健康、教育、そして安定した生活を送るための基盤が欠けている状態は、所得の低さと密接に関連しながらも、それぞれが独立した困難として存在します。

この多次元的な視点を持つことは、世界の貧困がなぜこれほど複雑で根深い問題なのかを理解する上で役立ちます。そして、貧困をなくすための取り組みを考える際にも、所得向上だけでなく、教育、医療、インフラ整備など、多様な側面へのアプローチが必要であることを示唆しています。

多次元貧困の理解は、世界の貧困問題全体の構造を知るための一歩となります。