貧困と格差:なぜ密接に関わるのか、その構造を理解する
はじめに:貧困と格差、その違いと関係
世界の貧困問題について考える際、「貧困」と「格差」という言葉を耳にすることがあります。どちらも社会の不均衡を示す言葉であり、しばしば混同されがちですが、厳密には異なる意味を持ち、しかし互いに深く関係しています。
この記事では、貧困と格差それぞれの基本的な定義を確認し、なぜこれらが密接に関わり、世界の貧困問題の構造を理解する上で格差の視点が重要になるのかを分かりやすく解説します。
貧困とは何か?基本的な捉え方
「貧困とは何か?」という問いに対する答えは一つではありませんが、一般的には、個人や世帯が、その社会で生活するために必要な最低限の資源や機会を利用できない状態を指します。国際的な文脈では、主に以下の二つの捉え方があります。
- 絶対的貧困: 生きていくために最低限必要な食料、水、住居、医療、衣料品などの基本的なニーズを満たすことができない、生命の維持に関わるレベルの欠乏状態です。世界銀行が定める「国際貧困ライン」(現在1日あたり2.15米ドル未満で生活する人々の割合)は、この絶対的貧困を測る国際的な基準の一つです。
- 相対的貧困: その社会全体の所得や生活水準と比較して、著しく低い状態にあることを指します。多くの人々が当たり前に享受している教育、文化活動、社会参加などが経済的な理由で困難な場合などです。これは、その国の経済状況や社会構造によって基準が定められ、国ごとに異なります。
これらの定義や違いについては、「絶対的貧困と相対的貧困とは? 定義と違いを解説」という記事でさらに詳しく解説しています。
格差とは何か?様々な側面
一方、「格差」とは、人々や集団の間にある所得、資産、機会などの「差」の広がり、すなわち不均等さを指します。貧困がある「特定の水準以下」の状態に焦点を当てるのに対し、格差は社会全体の分布における「差の大きさ」に焦点を当てます。
格差には様々な側面があります。
- 所得格差: 個人の収入や世帯の所得の分布における不均等さです。
- 資産格差: 不動産や金融資産など、個人や世帯が保有する資産の差です。
- 機会の格差: 良質な教育、医療サービス、安定した雇用、政治への参加機会など、人々が社会的な資源やチャンスにアクセスできる度合いの差です。
- 地域間格差: 国や地域内での、経済発展度合いやインフラ整備状況、公共サービスの質の差などです。
これらの格差は、社会における不平等の現れと言えます。
貧困と格差:なぜ密接に関わるのか?その構造
貧困と格差は定義上は異なりますが、現実には互いに深く影響し合い、世界の貧困問題の根幹に関わる構造を形成しています。
違いの再確認:
- 貧困: ある最低限の基準を下回る「状態」。
- 格差: 人々の間にある「差」の「広がり」。
例えば、ある国で経済成長が進み、多くの人々の所得が増えた結果、絶対的貧困ラインを下回る人の割合は減ったとします。しかし、所得が増えたのは一部の富裕層が中心で、低所得層の所得はほとんど増えなかった場合、社会全体の「所得格差」は拡大したと言えます。このように、貧困率が下がっても格差が拡大することはあり得ます。
密接な関係(なぜ関わるのか):
-
格差の拡大が貧困を生み出し、悪化させる:
- 所得や資産の格差が大きい社会では、富が一部の人々に集中する傾向があり、多くの人々が必要なサービス(医療、教育など)を受けるための資源を得にくくなります。
- 機会の格差、特に教育や健康へのアクセスにおける格差は、貧しい家庭に生まれた子どもたちが将来、安定した仕事に就き、十分な所得を得る機会を奪います。これは「貧困の連鎖」を断ち切ることを困難にします。
- 地域間の格差は、特定の地域が経済的に取り残され、そこに住む人々の貧困状態が固定化される原因となります。
-
貧困が格差を再生産・固定化する:
- 貧困状態にあると、十分な栄養や医療を受けられず健康状態が悪化しやすくなったり、十分な教育を受けることが難しくなったりします。こうした状況は、その個人の能力開発や社会参加を妨げ、さらに社会的な機会の格差を広げる要因となります。
- 情報へのアクセス格差や社会的なつながりの格差も、貧困層が社会の様々な機会から取り残される原因となります。
-
相対的貧困は格差の現れそのもの:
- 相対的貧困は、まさにその社会における所得や生活水準の格差が存在することで生まれる概念です。社会全体の所得分布の中で下位に位置する人が、平均的な生活水準から取り残される状態は、社会に格差があるからこそ生じます。格差が大きくなればなるほど、相対的貧困のリスクも高まります。
このように、格差の拡大は、人々が貧困に陥るリスクを高め、一度貧困に陥った人々がそこから抜け出すことをより困難にする社会構造を作り出します。格差は、単に「差があること」以上に、人々の生活や機会に直接的な影響を与える問題です。
国際社会における貧困と格差の議論
近年、国際社会では、単に貧困率を下げるだけでなく、社会全体の格差を是正することの重要性が強く認識されています。国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」においても、目標1「貧困をなくそう」と並んで、目標10「人や国の不平等をなくそう」が掲げられています。これは、貧困問題の解決には、格差の縮小が不可欠であるという国際的な合意に基づいています。
まとめ:構造を理解することの重要性
貧困と格差は、定義は異なりますが、互いに深く結びつき、影響し合う関係にあります。格差の拡大は貧困を生み出し、貧困はさらなる格差を再生産するという構造が存在します。
世界の貧困問題を根本的に解決し、誰一人取り残さない社会を実現するためには、個別の貧困状態への支援だけでなく、貧困を生み出し、あるいは固定化する社会の構造的な不均衡、すなわち格差に目を向け、その是正に向けた取り組みを進めることが不可欠です。貧困と格差の密接な関係を理解することは、世界の貧困問題の複雑な構造を読み解く上で非常に重要な視点となります。